Sea
「ほ、ほら準備とかあるし、今から用意してたら時間かかるじゃん」

「それは大丈夫。ほら」

そう言って、俺の左側を指差す。

そこにはパンパンに膨らんだかばんが転がっていた。

さっき投げてきたのはこれか……。


他に何か断る言い訳はないものかと頭を巡らせる。

塾は…行ってないし、宿題は?

どうせ向こうでやれとか言われそうだし。

あ、そうだ!

登校日があるじゃん。

が、すぐに思い出す。

今年は登校日なしになったんだっけ。

友達とはしゃいで喜んだな。

それでも何かないものかと考えていると、母親がぼそっとつぶやく。


「そういえば、給料くれるらしいよ。一日千円とか言ってたわね」

その言葉は俺の雑念を一瞬で吹き飛ばした。

一日千円?単純に計算して一ヶ月で三万円。

素早く頭の中で計算し終えた俺に選択肢は一つしかなかった。

「ぜひ、行かさせていただきます」

「そう?悪いわね」

答えなんてわかっていた、と言わんばかりに母親はそそくさと準備を進める。

俺は少し早まったか、と思いながらも三万円という金額に心躍らせていた。



これがほんの数時間前の出来事で、現在の俺はひどく後悔しているのだった。

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