狼彼女のお気に入り
角から出てきたのは、柴原だった。
……まるで、猫につままれたネズミだな
篠田はちょん、と柴原のブレザーの襟をつまんで歩くように促す。
柴原は少しつっかえながらも、こっちへ歩いてきた。
「ご、ごめんなさい……わ…私…会長と憐先輩が……そ、そういう関係だったなんて…知らなくて……」
「…は?」
「よ…呼びに来たら……あぅ………本当っ…ごめんなさい…!!」
目の前で頭を深々と下げる柴原。
俺は意味がわからずに首をかしげた。
「お前、何を言…」
「そうなの。せっかく、これから良いところだったのに。…ね、会長?」
篠田が俺の前に来て、そう言った。
有無を言わせぬその言い方に、俺は返事をすることなく、外方を向いた。
どう考えても嘘だと分かるはずなのに、柴原は篠田のその言葉を聞いて、また動揺し始める。
ったく、面倒くさい…
「柴原、行くぞ。」
「え?か、会長っ…?!」
強引に柴原の手を引いて、その場を離れた。
篠田が後を追ってくることはなかった。