狼彼女のお気に入り
踵を返して教室に背を向けた。
「か、会長…!」
「…なんだ」
「ありがとう!」
「っ…」
ありがとう………だと?
俺が生徒会長になってから今までに、礼を言われたことがあっただろうか?
文句を言われることはあっても、礼など……
「…知らん。」
「ヘヘッ」
俺は何だかむずがゆい気分になって、教室を早足で飛び出た。
ありがとう、か。
たとえ、篠田に言われたことが気にかかっていたからだとは言っても、礼を言われて悪い気はしない。
前は…
以前の俺は、怒鳴らなければ、直らないと思っていた。
注意するだけで済むほど甘くはないと。
でも、実際は違った。
こうして実際には注意しかしていないのに、アイツらはしっかりと反省しているように見えた。
それは決して、俺の見間違いやアイツらの嘘ではないと思う。
案外……良いのかもしれない、な。
「会長!いいんですかっ?」
「…あぁ。」
急いで追いかけて来たらしい柴原は、俺にそう尋ねた。
俺だって、いいのかどうかは分からない。
ただ…
今はこれで良い気がする。