狼彼女のお気に入り
楠木って……俺、だよな。
恐る恐るといった感じで、一人のクラスの女が話しかけてきた。
「…何?」
「あのね…体育祭のダンスの相手って……もう決まってたりするかな…?」
体育祭のダンス…?
……あぁ。あの全校ダンスのことか。
確か輪になって、男女で踊るんだよな。
まぁ、男は極端に少ないからほとんどは女子同士で組むらしいが。
これは全校の親交を深めようというものだから、勝敗に直接かかわったりはしない。
企画も生徒会ではなく、確か生徒からの希望だったから、俺はよく知らない。
「いや、特に決まってはいな──」
「じゃあ私と踊っ…」
「会長!私と踊って!」
「いや!楠木君は私とよ!」
な…何なんだこれは……
傾れ込むように、女が私も私もと押し寄せてくる。
「翔、大変だな。」
「頑張れ翔君〜♪」
恵介と優太は少し離れたところから、俺の様子を見て笑っている。
笑ってないで助けろよ…!!!
そんな俺の言葉が届く訳もなく、女達の数は増えて、どんどんと群がってくる。
「あ、あのな…!」
俺は誰とも踊る気はない
そう言おうとした時だった。
「──会長」
俺の手を誰かが掴んだ。