狼彼女のお気に入り
「どうしてこんなことになってるんだ?」
少し冷静になった優太を右に置いて、左にいる恵介に尋ねる。
恵介はまたもや、呆れたようなため息をついて、キッと優太を睨んだ。
「こいつが、……体育祭に出ないって言うんだよ。」
「──は?」
「だってぇ…!」
「だって、じゃない。体育祭はれっきとした行事だ。参加することに意義があると言っているだろ。」
「で、でも…!」
話についていけていない俺を置いて、話がどんどん進んでいく。
どうやら、優太が「体育祭に出ない」と言ったらしいのだが…
その理由が分からない。
優太は生徒会活動にも真面目に取り組んでくれるし、行事はいつも一番に盛り上がっている。
どっちかと言えば、恵介の方が乗り気じゃないかと思っていたが…
今の2人のやり取りを聞く限りでは、どう考えても立場が逆転している。
「優太、そんなに嫌なのか?」
「あ、あのね、翔君が頑張ってたから言えなかったんだけど…」
「ん?」
下を向いて、なかなか言わない優太に痺れを切らしたのか、恵介が小さく舌打ちをした。
「……優太は走ると転ぶんだ。」
「……。」
転、ぶ?
転ぶって…倒けるとか、転倒するとかの転ぶだよな?
「転ぶのぐらい誰でもあるだろ。」
「それが、な。優太の場合、尋常じゃない。」
「そ、そんなことないよぉ…!!」
焦ってそう否定する優太を、またしても恵介がキッと睨んだ。