狼彼女のお気に入り



「静かにしろ。」


「にゃっ…は、はぃぃ…」



恵介に睨まれて、優太は怯えたように黙りこんだ。



しかし転ぶって、な…



優太が走ると転ぶなんて話、聞いたことがない。



でも、2人の様子からして本当のことらしい。



「優太は走ると必ず転ぶ。それが一種のコンプレックスになっているんだ。」


「で、走る種目がある体育祭には出たくない、と。」



俺が確かめるようにそう言うと、優太は少しへこんだ顔でコクリと頷いた。



まぁ、転んだら恥ずかしいという気持ちも分からなくはないが…



「それにしても、なんでもっと早く言わなかった?」


「しょ…翔君が頑張ってた…から……僕が言ったら困っちゃうでしょ…?」



涙で潤んだ瞳で俺を見つめてそう言う。



はぁ…


そんな顔をされて、怒れるわけがない。



俺は優太に向かって微笑んだ。



「話してくれてありがとな。」


「ぇ…?」


「でも、体育祭にはちゃんと出ろ。…俺が何とかしてやるから、な?」


「…うん!」








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