狼彼女のお気に入り
「…篠田。気になってるんだろ?」
「ッ…?!」
恵介の口から出ると思わなかった言葉に、俺はむせ返る。
“篠田”
たったその一言だけなのに、俺の胸は心拍数を増す。
「図星か」
「ち、ちが…」
慌てて否定すると、恵介が呆れたようにため息をついた。
「お前は本当、分かりやすいな。」
「す、すまん…」
「そこは謝るところじゃないだろ。」
また呆れたようにため息をついた恵介。
俺はそっと視線を反らす。
そうだと言わなくても、俺の少し赤みを帯びた頬を見れば答えがわかってしまうだろう。
「あ…暑いな。」
「もう10月だぞ。」
…墓穴を掘ったらしい。
誤魔化すように笑った俺に、恵介もフッと笑った。
「会長〜」
どこかから俺を呼ぶ柴原の声がする。
その声が近づいてきて、校舎の角から柴原が顔を覗かせた。
「あ、会長!皆が探してますよ?」
「お、今行く!じゃあな、恵介。」
「…あ、あぁ。」
恵介は少し考えたかのような表情をしてから、何かを企んだように微笑んだ。