狼彼女のお気に入り
「…翔!」
「ん?」
恵介は俺の下へと歩いてきて、すれ違いざまに怪しい笑みを浮かべた。
「篠田、今日は来ないぞ。」
「え……あ、あぁ…そうか…」
ドクン、と胸が鳴る。
来ないのか、アイツ…
胸の奥深くがチクリと痛んだ。
少し落ち込んだ俺を置いて、恵介は走って行ってしまった。
俺はわざとらしく笑みを浮かべた。
そんな俺の様子を見抜いたのか、柴原は少し躊躇った表情を見せる。
「…私、さっきの用事は憐先輩のことかと思いました。」
「なんで篠田…」
「分からないです。でも………憐先輩はずるい」
「え?」
「なんでもありません!会長!早く行きましょう?」
「あ、あぁ!」
どうしてだろう。
いつも、あんなに楽しそうに笑う柴原が、一瞬、悲しそうに笑った。
まるで…
まるで、何かをぐっと堪えているかのような。
何かから目を背けているような。
でもそれはたった一瞬で、俺にその真相は分からなかった。