狼彼女のお気に入り
「あ、あの…!良かったら私…」
「会長。……浮気禁止、でしょ?」
「…篠田?!」
振り向くと、篠田が少し不機嫌そうな顔で立っていた。
いつの間に…
篠田は柴原をチラッと見て、ため息をついた。
「そんなに睨まないでよ。番犬ちゃん」
「番犬じゃありません。柴原芽依です。憐先輩。」
二人の間に不穏な空気が漂う。
俺はいたたまれなくなって、一歩下がった。
「…ねぇ、番犬ちゃん。」
「ですから柴…」
「会長。…借りてもいいかしら?」
「へ?」
借り、る?
意味不明な篠田の言葉に思わず素っ頓狂な声が出た。
「な、なんで私に聞くんですか…!」
「それをあたしに言わせるの?」
「ッ…」
「まぁ、いいや。…会長、行こ。」
「え?あ、あぁ。」
篠田に手を掴まれて、そのまま引っ張られるままに歩く。
でも柴原が気になって、後ろを二、三度振り返った。
柴原は俯いていて、表情を読み取ることは出来なかったが、その小さな拳が小刻みに震えていた。