狼彼女のお気に入り
篠…田……?
淡いピンクのワンピースに身を包んだ女は、にこやかに微笑んで車から出てきた。
学校での“あの”篠田とは全く違う。
でも…
一瞬見せたその容姿には似合わない、うんざりとした顔は篠田そのものだ。
何故あんな格好を…?
篠田らしき女は、連れの男とどこかへ向かい始めた。
「っ…!し、篠田…っ……」
何故だか、俺は急いでコンビニを飛び出して、篠田の名を呼んでいた。
俺の声が届いているのかは分からない。
だが、篠田の歩む先が変わった。
真っ直ぐに俺の方へと歩いてくる。
「篠田…っ!」
何故、俺はアイツの名を呼んでいるんだ?
心の片隅でそんなことを思っていても、真っ直ぐに篠田の方へ向かう俺の足。
徐々に歩む速度が速くなっていく。
「篠…」
「──Dove stiamo andando?」
「…は?」
軽く微笑んで、男の腕を引き寄せる。
……まるで、俺に見せつけるかのように。
「Si…carino.」
「Grazie.」
そのまま俺には目を向けずに通りすぎていった。