ffに愛して


おそる、おそるつかまれた手首を見ると…



くっきりついていた。
木村のつけた痕が。


「いいの、気にしないで。
ほら、合奏の準備して」


どうしよう。
怖い、ものすごく怖い。



足もとは震えてるし、握った拳は
じっとりしてきた。



全員に声をかけ、音楽室に戻ると。



「寧々っ!」


そう言って奏音が駆け寄ってきた。


「木村に絡まれたんだって?
気をつけてね、アイツだけには…」



奏音は全て知っていた。


あの後、心配になって私と同じ
クラスの子に聞いたんだって。



「大丈夫っ
それより合奏、合奏♪」



私は傷ついていないフリをした。


首を左右に振って自分に言い聞かせた。


今は、部活に集中しなきゃ。



乾いたくちびるでマウスピースを加える。



アイコンタクトで指揮者に合図を送ると、
軽やかな指揮棒の動きに合わせて
ベルから音符がこぼれだす。




< 5 / 6 >

この作品をシェア

pagetop