先生に囚われて
歌〜、理一なんかほっとけばいいのに〜。と後ろでなっちゃんがボヤく声が聞こえる。

たぶんりぃ君にも聞こえてる。



「悪りぃな歌、また来るから」


「……うん。また来てね」


スラックスのポケットに手を入れたりぃ君を玄関前で見上げる。


「当たり前だろ」


わたしの顔が変だったのか、りぃ君はクシャと髪を撫でてくれて、「なんだその顔」と笑った。


「いってらっしゃい」

「……あぁ、いってきます」

また来てね。戻ってきてね。

そういう気持ちが出たのか、いつもはバイバイなのに、今日はいってらっしゃいって口が勝手に言ってた。


手を振って見送るわたしを、りぃ君は軽く手をあげてから振り返らずに行ってしまった。


あーあ、行っちゃった。

なんでりぃ君は女の人のところに遊びに行くんだろう。

歌にはわかんないよ。

歌が大人になったらわかるのかなぁ。


……大人になったら、わたしとも遊んでくれるのかなぁ。


< 170 / 282 >

この作品をシェア

pagetop