先生に囚われて
さっきとは別の意味で急速に鳴りだす鼓動。

冷や汗で手が滲んで、ギュッと力を込めて握りこむ。

爪が掌に食い込む痛みも、指先の冷たくなる感覚も、今は何も気にならない。

頭にあるのは、りぃ君のことだけ。


「俺の授業はちょうどなかった」

「でも!それでも……、りぃ君、お仕事中なのに……っ、私」

「別に気にしなくていい、プリント作ったりするつもりだったし大したことはねえよ」


どうしよう、どうしよう。
バカだ。バカだ、私は。

自分の不安や気持ちの揺れが辛いからって、りぃ君に頼っちゃいけなかったのに……っ。

りぃ君と私は昔とは立場も状況も環境も……、何もかも違うのに。


優しくされたからって、頼ったらいけなかった。

自分の気持ちなんかを優先させたせいで、りぃ君に迷惑をかけるなんて、最悪だ。


最低、私、ほんとどうしようもないな……。

なに呑気に寝てたんだろ。なんでこんな時間まで気づかなかったのよ……っ。


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