先生に囚われて
走っていたはずの車はいつの間にか路肩に避けて停車していた。


「……歌」

呆れたような声音で呼ばれて、肩がどんどん萎縮していった。


はあ、と大きなため息が聞こえて堅く目を瞑っていると、そっと髪に何かが触れた。

髪を耳にかけあらわになった頬を滑るりぃ君の手が優しくて温かい。


目を薄く開けると、頬に当てられていた手に力を込められ、りぃ君の方に顔を向かされる。



私の顔を見た瞬間、りぃ君の顔が途端に苦しそうに歪んだ。


「噛むなっ」


痛々しいくらいに潰れそうな声と共に、口元にりぃ君の指が押し入ってきた。

「……うっ、……ふ…っ」

漏れる嗚咽が指に阻まれて籠もる。


「うた……、落ち着け。どうしたんだよ」


たくましい腕に包まれ、広い胸に顔を寄せられてようやく呼吸が出来た気がした。



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