【短】『鏡』
   キィッ

「・・・暑い・・・」

一年半ぶりに開くドアは、相変わらず少し軋む。

そして、そのドアの向こうに待っているものも、変わっていないはずだ。

   カタカタカタカタ

部屋の奥から機械音が聞こえてくる。

すると間もなく、家事用機械(ハウスキーパー)が姿を現す。

「カズヤ様ヲ帰リナサイマセ」

旧型のハウスキーパーは、返事をしなくても勝手にマニュアル通りにやってくれる。

「ヲ食事トヲ風呂トドチラニシマスカ」

カタカナの、抑揚のない、聞き取りにくい声。

ハウスキーパーの胴体にある画面の【食事】に指で触れる。

「メニューヲ選ンデ下サイ」

何種類かのメニューのうちの一つに触れる。

「ジュウゴ分後ニデキアガリマスノデヲ待チ下サイ」

そう言って、僕に背を向けて部屋の奥へと消えていく。
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