【短】『鏡』
「お帰り」

気がつくと、よれよれの白衣を着た父さんが立っていた。

「あ、ただい・・・ま」

「どうしたんだ? 玄関なんかにたたずんで」

「え・・・ちょっと、考え事を・・・」


・・・良かった。

生きていた。


父さんは、笑うと目尻にしわが寄る。

そう、この感じ。

帰ってすぐに顔を見せる、母さん代わり。

そして、遅れて出てくる父さん。

僕は、この家が好きだ。


温かい。


「荷物」

父さんは、僕の手から荷物を取って後ろを向いた。

僕は慌てて靴を脱ぎ、その背中を追った。

「疲れただろう? 今日は、ゆっくり休みなさい」

「うん」

 一年半前とちっとも変わらない父さん。

だけど、少し痩せた気がする。
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