【短】『鏡』
「外国での生活はどうだった? 楽しかったか?」

「楽しかったよ。新しいことばかりで、勉強になった」

「それは良かった」

部屋に行く途中、研究室の前を通る。

開け放たれたドアの向こうから、熱い空気が流れてくる。

「・・・父さん、痩せたね。無理しないでよ?」

「無理なんかしてないよ。もう少しで『核』が完成しそうなんだ。今、研究がとても楽しい」

そう言って笑う父さんは楽しそうで、少しだけ、悲しそうだった。

『核』の発明は、母さんとの『夢』の第一歩だったから。

その完成を待たずに、母さんは死んでしまったから。

心配そうな表情をしているらしい僕の頭を撫でて、父さんは言った。

「和也と父さんと、母さんの『夢』だもんな」

そう。

そのために、僕は留学して科学を学んだ。

『死』の危険性のある父さんを置いてまで。

「ヲ食事ノ用意ガデキマシタ」

「ほら、アスカが呼んでいる。食べておいで」

「・・・うん」

 荷物を父さんに任せて、僕はアスカの呼ぶ方へ行った。
< 7 / 22 >

この作品をシェア

pagetop