陰陽(教)師
「これは葉衣観音だ。三十三観音の一人で、鎮宅…つまり家の怪異を鎮める力を持つ」

「へぇ?」「ほぉ?」

嵩史と鈴子は同時にうなずいた。

「この葉衣観音の力でこの家の怪異を鎮めれば、この部屋から脱出できるはずだ」

晴明は、左手で携帯を高く掲げた。

「胎蔵界 曼陀羅 観音院に座す葉衣観音の力を以って鎮宅す…」

嵩史と鈴子は、部屋の空気が張り詰めてゆくのを感じた。

「オン ハラナ シャバリ ウンハッタ」

晴明がそう唱えると同時に、震動が起こった。

「地震!?」

鈴子が叫んだ。

「違う!空気が震動してんだ!」

体に伝わる感触から、嵩史はそう判断した。

その時である。

『ひもじい…』

聞き覚えのある声が部屋に響いた。

鈴子と嵩史は、顔を見合わせた。

『ひもじい…』

突然、あの老婆が姿を現した。

しかしその大きさは先ほどとは比較にならないほどで、身の丈は優に三メートルを超えていた。

「なんだありゃ!?」

< 64 / 204 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop