陰陽(教)師
断末魔の苦悶の叫び声が部屋中に響き渡る。

嵩史は耳をふさぎ、鈴子は晴明の背中にしがみついた。

しばらくして鈴子が顔をあげると、巨人のいた空間には、もう何も無かった。

ただ数十枚、いや数百枚の畳が吹き飛んでいただけだった。

「すごい…」

鈴子は晴明のスーツを握りしめたまま、呆然となった。

「まだ終わってない」

晴明は携帯を再び高く掲げた。

「ノウバク ハルナバリ ソワカ!」

次の瞬間、画面の葉衣観音が白く光り輝き、その輝きは部屋中に満ちた。

嵩史と鈴子はその光のまばゆさに目を閉じた。

「もう大丈夫だ」

晴明の言葉に二人が目を開けると、部屋は元の八畳の和室に戻っていた。

「ん?」

嵩史は足もとに目をとめた。

そこの畳が一枚だけ、めくれあがっていた。

「現実と幻覚の狭間にいたようだな」

晴明がつぶやいた。

「妖気が消えたぜ」

嵩史のヒゲは動かなかった。

「出よう」

晴明の言葉に、二人はうなずいた。

< 66 / 204 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop