陰陽(教)師
杉沢東高校には北館と南館がある。

南館には1年生の教室や職員室、音楽室等があり、北館には2年生と3年生の教室、図書室がある。

その北館の屋上に安倍晴明はいた。

スーツの上に赤いダウンジャケットを羽織った姿で、じっと屋上の扉を見つめている。

手には1冊のファイルを持っていた。

屋上では、北風が唸りをあげている。

「さむーい!」

晴明の傍らにいた鈴子が大声を出した。

制服の上に白のダッフルコートを着込んでいるが、むき出しの顔や手に吹き付ける北風は、いかんともしがたいらしい。

「先生、さむいよー!」

「別に木下はここにいなくてもいいんだぞ」

「リンって呼んでってば!」

鈴子はヤケになって叫んだ。

「それにこういう時でもなきゃ、先生と2人きりになれないじゃん!」

寒さをこらえて足踏みを繰り返すその姿は、せわしない事この上なかったが、鈴子が言っていることは事実だ。

着任以来、晴明は女生徒たちの注目の的だった。

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