陰陽(教)師
ナナも同様に四つん這いになっていたが、やがて両ヒザと両手を使って、部屋から逃げ出そうとした。
ヒロシも必死に彼女の後を追おうとした。
その時。
『逃げるな』
二人の背中に、老婆の声がかかった。
老婆はこう続けた。
『おぬしらを喰わせろ』
次の瞬間、家中に二人の叫び声が響き渡った。
―――――――――――
しばらくして、叫び声はやんだ。
風でざわざわと木々が揺れる、この空き家の庭に、その男が姿を現したのはその時だった。
黒の着物姿。
年の頃は四十ぐらい。
髪は一本もなく、禿げ上がっている。
左右の目は極端に離れ、耳もとまで裂けたその口からは、赤い舌がのぞいている。
明らかに異形の者であった。
しかしその男は、異形の者らしからぬ殊勝な顔つきで、すでに人気(ひとけ)の絶えた家を仰ぎ見た。
「おいたわしや…」
男は手を合わせた。
その目の端には、涙が光っていた。
ヒロシも必死に彼女の後を追おうとした。
その時。
『逃げるな』
二人の背中に、老婆の声がかかった。
老婆はこう続けた。
『おぬしらを喰わせろ』
次の瞬間、家中に二人の叫び声が響き渡った。
―――――――――――
しばらくして、叫び声はやんだ。
風でざわざわと木々が揺れる、この空き家の庭に、その男が姿を現したのはその時だった。
黒の着物姿。
年の頃は四十ぐらい。
髪は一本もなく、禿げ上がっている。
左右の目は極端に離れ、耳もとまで裂けたその口からは、赤い舌がのぞいている。
明らかに異形の者であった。
しかしその男は、異形の者らしからぬ殊勝な顔つきで、すでに人気(ひとけ)の絶えた家を仰ぎ見た。
「おいたわしや…」
男は手を合わせた。
その目の端には、涙が光っていた。