【短編】大好きだった
別れてからも彼は私のなかから一向に消えてくれなかった。
それどころか彼の存在は日を追うごとに大きくなっていく。
彼を思い出すたびに淡いピンクの枕カバーが赤く染まった。
忘れなくちゃ、と思っても帰り道では、無意識に彼の姿を探している。
人混みのなかで彼の声がすると、振り返って彼の姿を探した。
彼が帰ってくる時間帯に駅で待ち伏せて、彼の姿が見えると怖くなって走り去った。
駅から遠く離れた所で走るのを止めて、後ろを振り向いた。
もしかして彼が私の姿を見つけて、追いかけてきてくれてるのではないか。
そんな期待を抱いても、代わり映えのしない静まり返った町並みに胸を痛めるだけだった。
「…何やってるんだろ」
呟いた言葉は夜の住宅街に溶けて消えた。
ストーカーみたいだ。
自分が酷く惨めで、一人笑った。