【短編】大好きだった
思えば彼と付き合っていても、ずっと片想いのようだった。
「好き」の一言が聞けなくて、いつも彼を疑っていた。
彼の気持ちが分からなくて、いつも不安だった。
私だけが好きで、一方通行だと、よく思っていた。
けれど、
彼はその眼差しで、私に触れる手で、いつも「好きだよ」と伝えてくれていた。
そのことを今日、
彼に言われて気付いた。
あの頃の自分をひどく悔やんだけれど、同時に彼の最初で最後の『好き』を聞けて幸せを感じるとともに、何かが吹っ切れたように思えた。
私はふと歩みを止めて、後ろを振り返った。
彼の背中は既に小さくなっていた。
少しだけ彼の姿を眺めて、またひとつ涙を流した。
未練がましいけれど、まだまだ彼を忘れることは出来ない。
だけどこれで最後。
もう泣かない。
そう決意して服でごしごしと目を擦ると、何だかスッキリした。
ふっと笑うと、
世界が明るくなった気がした。
「ばいばい」
もう見えない彼に背を向けて、私はまた歩き始めた。
fin.