trompe-l'oeil
薄暗くて、気味がわるい。
いつもならこんな場所、
きっとすぐはなれるのに。
不思議と怖いなんて思わなかった。
むしろ、どこか懐かしい気さえした。
すこし進むと、灯りが見えた。
薄暗い光で地面を照らしている。
ただの街灯。
だけど光に照らされている場所だけ、
別の世界に思えた。
『おいで、おいで、帰っておいで。』
『私達のもとに。俺達のもとに』
そんな声まで聴こえた気がした。
あたしはゆっくりと近づいていく。
街灯に照らされた別の世界へ。
光の元へ。皆の元へ。
まって。行っちゃだめ。
"あたし"が遠くで叫んでる。
だけど、あなたはもうあたしじゃない。
何も思い出せないあなたには関係ない。
それきり遠くの"あたし"は喋らなくなった。
彼女は静かに微笑み、
光の中へ、足を踏みいれた。