生きた証 SILENT VOICE
男の子はそれを握り締めて離そうとしない

『すみません。雄斗離しなさい』

この子の母親らしき人が

俺に向かってお辞儀をしている

『いえ、お姉さんの物らしいのでどうぞ』

『確かに見覚えがありますが、見間違いだったら・・・』

どこまでも腰の低い言葉遣いに

こっちも腰がどんどんと低くなっていく

『拾った物なんです。なのでお姉さんの物かもしれません』

背中にうっすら汗をかいてきた

電車の中は冷房が効いているのにも関わらず

『すみません』

また深々とお辞儀をする女性

『じゃあ僕はここで降りるので失礼します』

深々とお辞儀をしてから

逃げ去るように電車を降りた

あの宝石はお姉さんの物らしいけど

学校にあったということは

持ち主はうちの学校の生徒なのか

こんな事を考えてはみたが

持ち主が分かったとしてもどうにもならない

きっと

明日になればそんな事は忘れているだろう
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