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大きなリュックを背負い、母親を呼びながらぴょんぴょんと跳ねる少女。
父親らしき人物の横で、眠そうに、だけど笑みを浮かべた母親が少女に声をかける。
なんて、幸せな光景。
旅行にでも行くのだろうか。浮き足だった少女は、追い付いた親の手をとり、聞き覚えのある歌を口ずさんだ。
『あれって水子の歌だよな』
『タカヒロ』
『旅行かな』
大きな欠伸をしながら、腕をあたしの肩に乗せてくる。
『どけてよ、重い』
『起きてんなら起こせよ。』
『タカヒロの寝起きはゴメンだわ』
『起きて一人だと寂しいだろ』
タカヒロからさっきの家族へ目線を戻すと
さっきよりもずっと遠くまで行ってしまっていた。
カチッとライターの音が鳴り、あたしの煙草を口元へともっていくタカヒロ。
寝癖のついた髪が情けなく、それでもそれさえも、可愛く感じてしまう。
『ねぇ』
『ん?』
『ちゅーして』
煙草を奪い、唇を近付ける。
腕が頭に周り、優しく撫でられる。
マルボロの、メンソールの味が
口に広がった。