ラブファイター


あたしはただ呆然と立っていることしか出来なかった。
なにも…言葉が出てこなかった。



「…っ…悠斗!」

声だけで、麻由が震えているのが分かった。

いつもクールで。
いつも優しくて。

いつも…感情を出さない。


あたしが知っている麻由は、そんな人だった。




「おい。行くぞ」

「え?」

グイっとあたしの腕を引っ張りながら、その場を離れようとする。


「ちょっ!何処に…」

「黙ってろ」

急に椎名くんが大声を出したから、ビクッと身体が震えた。

無言で歩いていく椎名くんの後ろ姿は、何処か寂しげで、悲しそうに見えた。



「和泉!お前…っ…」

後ろから悠斗の声が聞こえてくるのに、椎名くんは一切振り返ろうとしない。



まるで一秒でも早く、ここから離れたいとでもいうような感じで。




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