楽々荘の住人十色
「才能なんかありません。だから行きませんよ、海外なんて…」

強く握り締めた拳が、かじかんで動かない。

「直ぐにとは言わないよ、廉が卒業するまで待つからさ」

バカみたいだ。
そして、屈辱的。
不意を突かれたように才能認められるのは。

選択が沢山あるのは良いけど、その選択の中に私の望んでる正解なんてない。
私がもし男なら、なんて考えられない。
私は何か名誉や地位が欲しくて服を作ってる訳でもない。
有りすぎる幸せと希望に今、押し潰されそうだ。

タバコをひねり消して、部屋に戻った。
部屋にはもうすぐ完成する、あのブラウスをトルソが虚しく着飾ってる。


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