楽々荘の住人十色
頭を抱えて壁際にヘタり込むと資料をまとめるホッチキスの音が止まった。

「無い物ねだりの意気地無しはモテねぇだろうな」

トンっと資料を整える音がしたかと思うと葵は教室から出て行った。

俺は弱い。
叱られたくない。
嫌われたくない。
どんどん気分は沈んでいく。

相変わらず蝉は中々鳴り止まない。
叫ぶだけの1週間に何を求めるのか。
熱の篭った夕日が傾き始めても、僕の身体は一向に動いてはくれなかった。

寮に着く頃には人通りも少なくなって道端のミミズが奇妙な音を鳴らしていた。
寮の窓は、廉の部屋しか明かりは点いてない。


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