楽々荘の住人十色
かゆくて、もどかしい。
そんな感覚を過ぎらせる音は緊張と寂しさを一気に呼び寄せた。

細い腕を掴んで強く抱きしめた身体はいつもよりもやわく軽かった。

「早苗さん…いえ、先輩。…さよなら」

また木陰が大きく揺れて、電気の点いていない資料室は薄暗くから暗いに変わった。

「それと…好きでした」

優しく微笑んだ早苗さんに自分から深くキスをした。
木陰がまた部屋を薄暗くに戻すと唇を離した。

そして、早苗さんは僕の腕を布がすり抜ける様に離れ資料室から出ていった。


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