世界の果てに - 百年の光 -
父さんの部屋は、最上階の一番奥の部屋にある。
そこの大きな窓から見える景色が、父さんは一番好きだった。
「―――国王様、失礼いたします」
チェディが扉を叩くと、中にいた執事が扉を開けた。
マスクをしている執事を見て、父さんの病気は本当なんだと思い知らされる。
「さぁ王子、これを」
チェディに渡されたのは、同じようなマスク。
それで、感染を防げるかなんて分からないけど、一応何も言わずにつけた。
「……アスティ、か?」
薄いカーテンで囲まれたベッドの上で、影が揺らぐ。
久しぶりに耳に届く声は、胸の奥に響いた。
「…うん。久しぶり、父さん」
少しだけ、声が震えた。
情けないなと一人苦笑する。
「…顔が見たい。近くに来てくれ」
前より嗄れた声に導かれるように、オレはベッドに近付いた。
薄いカーテンを掴むと、除き込むように中に入る。
「…大きく、なったな」
不意に、泣きそうになった。
オレが知っている父さんの面影は、もうなくなりかけていたから。
賢く、聡明で威厳のある姿は、今や気力を失いかけていた。