世界の果てに - 百年の光 -

あたしがこの部屋に落ちる直前の、デューイくんの表情を思い出す。


見てるこっちが苦しくなるような、悲しそうな顔。


「…やっぱり、アスティの弟だなぁ…」


アスティがこの国に戻る前に見せた表情と、そっくりだった。


誰かを想う、そんな表情。



あたしは膝を抱き寄せると、そのまま顔をうずめた。


ひんやりとした壁の感触が、背中から伝わってくる。


「お兄ちゃん…」


ポツリと呟くと、お兄ちゃんの顔が頭に浮かんだ。


「お父さん、お母さん…」


考えないようにしていた。


考えてもすぐに会えるわけじゃないし、悲しくなるだけだから。


…でも、アスティとデューイくんを見たら、思い出してしまった。



「会いたいなぁ…」



―――家族の、温もりを。


当たり前だった光景が、突然当たり前じゃなくなった。


もしこのまま帰れなかったらと思うと、ぞっとする。



だからアスティには、会えるときに、大切な人たちに会って欲しかった。


今の気持ちを、しっかり伝えて欲しくて。


< 160 / 616 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop