世界の果てに - 百年の光 -

冷たい床に胡座をかいたまま、俺は苦笑する。


するとアスティは、俺の顔を覗き込むようにして言った。


「…辞めるの?盗賊」


簡単に心の内側の部分に触れられて、思わず押し黙る。


アスティの生活に、憧れを抱いたのは確かだった。



でも俺には、家族がいない。


家族と呼べるたった一人の人間は、去年この世からいなくなった。


あの時、確かに俺は、左目の傷に、盗賊として生きることを誓ったんだ…。



「―――――辞めないで、エル」



紫の瞳が、優しく細められて俺を見ていた。


その言葉は、不思議と俺の中に吸い込まれるようして入ってきた。


「盗賊をやっていたから、今のエルがあるんでしょ?」


「………」


「だったら、勿体ない。オレは、今のエルが好きだよ」


…好きだなんて、サラリと言いやがって。


気持ち悪いなんて憎まれ口、叩けないくらいに笑顔浮かべやがって。


けど、そんなアスティの言葉だから。


―――すんなりと、受け入れることが出来るんだ。

< 187 / 616 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop