世界の果てに - 百年の光 -
―――同じ頃、北西に位置するサイリア国では、一人の青年が駆け回っていた。
「……っ、どこだ…?」
きょろきょろと辺りに探るような視線を向け、人混みを掻き分けている。
時々、干上がった大地に足をとられ、転びそうになっていた。
ここサイリアでは、稀な大干ばつが起こり、ここ数ヶ月に渡り、全く雨が降っていない。
日差しが和らぐ季節になったとは言え、農作物は大きな被害を受けていた。
…これは、世界が傾いている証。
再び足をとられ、転びそうになったところで、声が掛けられた。
「あっれ、フィオじゃん」
その声に、青年…フィオは、勢いよく振り返った。
短く刈り上げられた茶髪に、淡い紺の瞳。額にある傷跡。
そこには、フィオが探し求めていた人物が立っていた。
「オーガ様っ!」
フィオはオーガに駆け寄ると、安堵のため息を漏らす。
「良かった…予想よりも早く見つけられました」
「俺がどこにいたって、お前ならこれで見つけられるだろ?」
オーガは苦笑すると、右手首のブレスレットを見せた。
高価そうに見える金のブレスレットには、魔術がかけられている。
「ったく、親父のせいでさ。ま、別に逃げる気もないからいいけど」
フィオはそのブレスレットを見ながら、申し訳なさそうに微笑んだ。