世界の果てに - 百年の光 -
さすがに瞳は黒のままだけど、鏡に映る自分は何だか別人のような気がした。
「あれ、髪飾りはしてないの?」
「あ、うん。この髪色だと、何か似合わなくて」
アスティに訊ねられ、あたしは胸ポケットから髪飾りを取り出す。
…エルが買ってくれた、淡いオレンジ色の髪飾り。
本当はつけたいんだけど、髪色と侍女という立場を考えると、今は大切にしまっておく方が良いと思った。
「せっかくやったんだから、無くすなよ」
エルの上から目線なセリフに、口を尖らせて「はいはい」と返事を返す。
ちょうどその時、八時を告げる鐘が鳴った。
「…そろそろリュウが来るな」
窓の外に目を向けながら、エルがポツリと呟いた。まず最初に城内に入るのは、リュウさん、エル、アスティだ。
不意に、琥珀色の瞳があたしを捉える。
「あー…」
エルは何か言いたそうに口を開いてから、すぐに閉じて髪を乱暴に掻いた。
「……よし。今日は気合いいれてくぞ。以上」
結局、早口でそう言ってから、エルはアスティの首もとを引っ張って部屋から出ようとする。
「ーーーエル!アスティ!」
その背中を呼び止めて、あたしは精一杯の笑顔を浮かべた。
「また、あとでね!」
二人分の笑みが返ってきたあと、扉がパタンと音を立てて閉じた。