世界の果てに - 百年の光 -
「…クリス……、マーサ?」
おずおずと疑問系で名前を呼ぶと、表情がフッと和らいだ。
「…はい、マーサと申します。元のこの姿では初めましてですね、リオさん」
そう言って嬉しそうに微笑んだマーサは、女のあたしでも惚れ惚れするくらいに可愛かった。
こんな可愛い子に荷台を引かせてたなんて…なんて罰当たりなあたしたち。
「良かった…戻れたんだね」
「はい。兄に…フィオに戻して貰ったとき、全ての記憶を取り戻せました」
ただ、思い出したくない過去もありましたけど…とマーサの表情が少し曇った。
それもそうだと思う。地下牢でフィオが話してくれた過去は、聞いていたあたしも辛くなったくらいだから。
「…でも、兄さんが生きていて、こうして私を護ろうとしてくれていて。それだけでも充分です」
「それだけじゃ、ないよ」
それまであたしとマーサの会話をじっと見守っていたアスティが、そう言ってマーサの手を握った。
………ん?手を握った?
「オレも君の力になるから」
「アスティ様…」
頬を赤く染め、潤んだ瞳でアスティを見上げるマーサ。そんなマーサを、愛しそうに微笑んで見つめるアスティ。
二人の雰囲気についていけないあたしは、とりあえず咳払いをして割り込んだ。
「…ちょっと、あたしが寝てる間に何があったの?」
「あ、ごめんねリオ。…少し前から順番に説明しようか」
アスティは苦笑すると、あたしが地下牢にいる間のことを話し始めた。