世界の果てに - 百年の光 -

「…クリス……、マーサ?」


おずおずと疑問系で名前を呼ぶと、表情がフッと和らいだ。


「…はい、マーサと申します。元のこの姿では初めましてですね、リオさん」


そう言って嬉しそうに微笑んだマーサは、女のあたしでも惚れ惚れするくらいに可愛かった。


こんな可愛い子に荷台を引かせてたなんて…なんて罰当たりなあたしたち。


「良かった…戻れたんだね」


「はい。兄に…フィオに戻して貰ったとき、全ての記憶を取り戻せました」


ただ、思い出したくない過去もありましたけど…とマーサの表情が少し曇った。


それもそうだと思う。地下牢でフィオが話してくれた過去は、聞いていたあたしも辛くなったくらいだから。


「…でも、兄さんが生きていて、こうして私を護ろうとしてくれていて。それだけでも充分です」


「それだけじゃ、ないよ」


それまであたしとマーサの会話をじっと見守っていたアスティが、そう言ってマーサの手を握った。

………ん?手を握った?


「オレも君の力になるから」


「アスティ様…」


頬を赤く染め、潤んだ瞳でアスティを見上げるマーサ。そんなマーサを、愛しそうに微笑んで見つめるアスティ。


二人の雰囲気についていけないあたしは、とりあえず咳払いをして割り込んだ。


「…ちょっと、あたしが寝てる間に何があったの?」


「あ、ごめんねリオ。…少し前から順番に説明しようか」


アスティは苦笑すると、あたしが地下牢にいる間のことを話し始めた。

< 590 / 616 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop