世界の果てに - 百年の光 -

いつものように、憎まれ口で返すことはいくらだって出来た。…ただ、今はそんな気分じゃなかっただけ。


「腕は?」


「あ、お医者さんが頑張ってくれたみたいで、もう痛みはないよ」


「…なら、良かった」


フイ、と視線を背けて言ったあと、視界に嬉しそうに笑うちびっこの顔が映ってしまった。


…くそ。こんな雰囲気、俺は苦手なんだ。


「あ、そういえばここに来る途中で、オーガとフィオに会ったよ」


俺の気持ちを知ってか知らずか、ちびっこの方から話題を逸らしてくれた。


「オーガはなんかこう…国王の威厳みたいのがもうあって、びっくりした。フィオも亡国の王子らしいけど、もうオーガの側近になること決めてたしね」


「アイツの戴冠式でのスピーチ、たいしたもんだったからな」


「………」


「あん?何だよ」


瞬きを繰り返したちびっこは、へぇーと感心したように言ってから口を開いた。


「エルでも人のこと褒めるんだね」


「…喧嘩売ってんのか」


「だって、オーガには特に敵対心持ってなかった?」


あはは、と無邪気に笑うその姿は、この先もずっと、近くにいるんじゃないかと勘違いさせるもので。


ーーーそれが無性に、腹が立った。


「…?エル?」


行くな、なんて言えない。そばにいろ、なんてもっと言えない。


ただ、今だけは。

もっと近くにーーーーー…

< 597 / 616 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop