世界の果てに - 百年の光 -
一生懸命自転車を漕いで駅へ向かいながらも、ふと懐かしさを感じた。
そういえば、あの時は大学受験の朝に寝坊して、必死に自転車を漕いでいたっけ。
「…どんだけ大事な日に寝坊繰り返してんの、あたし」
自分の間抜け具合に、思わず苦笑する。
まぁ、希望の大学には二次試験でなんとか合格できたからよかったけど…今日は就職試験だからなぁ。
フィオに出会った辺りにさしかかって、いつもなら素通りしてしまう道だけど、ふと自転車のブレーキを引いた。
「……懐かしいな…」
思わず零れた台詞にハッとして、首を左右に振る。
今は感傷に浸ってる場合じゃない。そう思い直し、ペダルに足を掛けた時だった。
「…え」
何度も瞬きを繰り返しても、見間違いじゃないし、幻覚でもない。黒猫が、いる。
…いやいや、別に黒猫が歩いてたって、何の不思議もないんだから。
そう分かっていながらも、こっちに近付いてくる黒猫を見て、思わず彼の名前を呼ばずにはいられなかった。
「……フィ、フィオ?」
その呼び掛けに、黒猫はじいっとあたしを見つめたかと思えば、顔を背けて違う方向へ走っていってしまった。
途端に、猛烈な恥ずかしさに襲われる。
「〜〜〜っ、あたしのバカ!」
「知ってる」
ーーーーー…え?
突然、背後から聞こえた声。驚いて振り返った先にあったのは。
思わず目を細めてしまうくらい、オレンジ色に輝く太陽だったーーー…