俺様男に心乱れて
実家に着き、ガラガラとガラス戸を開けて「ただいまー」と言うと、すぐに母がパタパタとスリッパの音をさせて出迎えてくれた。

「小枝子、携帯はどうしたの? 駅まで迎えに行こうと思ったのに、何度掛けても電源が切れてるとか言われちゃって…」

「ああ、ごめんなさい。電源落としたままだったから…」

「どうして?」

「それはちょっと…」

母と電話で話した後、私は携帯の電源を落としてしまった。このまま、ずっとそうしておくつもりだ。


「荷物はそれだけなの?」

「うん」

「小枝子の部屋に運んでおくわね」

そう言って母が私のボストンバッグを持とうとした。

「自分で運ぶからいいよ」

「いいから。それよりあんたは、父さんに挨拶しなさい。父さんは小枝子が帰るのを楽しみにしてたんだから」

「わかった」

父に会うのは、正直言って嫌だった。
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