俺様男に心乱れて
「実家の?」

随分とお金持ちの実家なんだなあ。

先程の男性が運転席に乗り込んだ。

「実家の使用人の黒崎さんだ」

「黒崎と申します」

「あ、楠本小枝子です。よろしくお願いします」

黒崎さんは、「こちらこそ」と低い声で言い、カチャッとシートベルトをした。

「へえー、あんたの名前、楠本小枝子っていうんだあ。幸が薄そうな名前だな?」

「余計なお世話です!」

自分でもそう思うだけに腹がたった。

「お坊ちゃま…」

「その呼び方は止めてくれって言ってるだろ?」

「失礼しました。では、亮介様…」

「何?」

ああ、やっぱりこの人が北島亮介なんだ…

「そのお嬢様のお支度は、ちょっと…」

「別にいいだろ?」

「いいえ、店の者が困りますから…」

「分かったよ。じゃあ、洋服屋に寄ってよ?」

「かしこまりました」

黒崎さんがそう言うと、車はスーッと走り出した。

「洋服屋さん?」

「ああ。悪いけど、ちょっと寄らせてもらうよ」
< 26 / 190 >

この作品をシェア

pagetop