俺様男に心乱れて
「おまえは?」

「私? 好き嫌いは多すぎて言い切れないわ」

「そうなのか? 意外と我が儘なんだな」

「すみませんね」

「あはは」

「うふふ」

亮介さんの笑い声って、初めて聞いた…

「じゃあ俺はコーヒーを煎れるよ」

「持ってきたわよ、コーヒー。しかも私の特性ブレンドよ?」

「へえー、用意がいいな」

「紙コップも持って来たから」

「あ、それはちょっと待て」

「え?」

亮介さんは茶箪笥からマグカップを2つ取り出してテーブルに置いた。
それは黒と赤の、お揃いのマグカップだった。

「もしかして、これも私のために…?」

「まあな」

亮介さんはスリッパの時と同じく、照れた感じでニヤっとした。

私は嬉しすぎて、とうとう涙が出て来た。

「お、おい、どうした? なんで泣くんだよ?」

「だって、嬉しくて…」

「大げさだなあ」

「ごめんなさい…」

「そんなにしおらしくされると、ヤリにくくなるな…」

「え? 何?」

「いや、何でもない」


その夜は予想通りというか、期待通りと言うべきか、アパートに帰してはもらえなかった。
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