初涼
この手の届く距離
 学校を出ると、陽はだいぶ落ちていて、吹き付ける風が冷たく感じられた。

寒い

ついさっき、友達と笑い合いながら校舎を出た。
今は一人だ。
隣を自転車通学の子が通り抜けるのを横目で追って、自転車のステッカーの色をさりげなく確認する。
緑、わたしの学年カラーだからあの子もニ年生。
わたしの胸元に揺れる学年カラーの緑のリボンは少し色落ちしてくすんで見える。

 高校生になって二度目の冬休みが目の前まできていた。
赤いリボンの一年生が数人、笑い合いながら横を通るのを、若いな、なんて思いながら目の端にとらえる。
たった一年、一歳しか違わないのにこの差は何だろう。
羨ましいような、虚しいような気分がわたしを取り巻く。
どうしようもなく鬱陶しくて、ふうっと息を吐いた。
学校を見上げれば、もっと期待を込めてこの校舎を見上げていた二年前の自分が嘘のように感じてしまう。
あの頃は本当にこの高校に行きたかった。
憧れて、この高校の制服がどこよりもかっこよく見えた。
評判もよくて、風紀も乱れてなくて、地域に愛され、伝統と誇りに支えられた県内でもそこそこの進学校。
実際にいい学校なのだ。
どことなく垢抜けしてなくて、素朴な友人達はみないい人ばかりだし、先生も熱心で不足しているものは何もない。
近隣の学校に比べれば校則だって、ずっと緩い。
不満があるわけじゃない。
ただどこか息苦しい、だけ。
青ステッカーの自転車に乗った三年生の後ろ姿はある意味その象徴みたいなもので、その三年生達は一月にセンター試験を控えている。
学校の空気がなんとなくピリピリし始めていて、それはわたし達の学年まで伝染してきていた。

 次は、自分達の番なのだ。
先生達は何かある度に、二年の三学期は受験生ゼロ学期と叫ぶ。
職員室前の掲示板には防大の合格者や私立の指定校推薦で合格した先輩の名前が掲示されている。

逃げたい。
まだ、結論をだしたくない。
そんな自分が
時々、嫌になる。
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