初涼
「りっちゃん!何してんの?」
背後から間延びした声が聞こえ、振り向けば、芽衣子が高く手を振っていた。
芽衣子の所属する吹奏楽部は終わるのが遅いことで有名だし、部員の芽衣子が帰っているということは、もうそろそろ完下だろう。
芽衣子とは二年になって仲良くなった。
いつものことだが、ふわふわした空気を漂わせ、それが、今のわたしには堪らなく鬱陶しかった。
いかにもな真面目ちゃんだが、注意力が欠落しているのか、少々ぬけている。
初めて見たときは、まさか同じグループにつるんで、一緒にお昼を食べる仲になるとは思わなかった、が、それほど悪い子じゃない。
むしろ、いい子すぎて、隣にいることに時々疲れてしまうくらいに。
わたしが一人、内心百面相していることを知ってか知らずか、芽衣子は特に話をするわけでもなく、わたしの横を通りすぎるところだった。
「メイ、ばいばい」
「ばいばーい」
振り向いて再び手を振る芽衣子が呑気な笑顔だったことに苛立ち、心の中で早く帰れよと罵った。