愛し-kanashi-



どれくらいの時間が過ぎたのだろう。
気付けば空の色が青からオレンジへと変わっていた。

「あの、本名なんですか?」

その子が俺に聞いてきた。

「五十嵐……、悠太」

「五十嵐さんね。私の名前ちゃんと覚えていてね」

そう言うとその子……、彩華は屋上を後にした。
一人屋上に残った俺はまたボーっと空を見ていた。俺は空が好き。表情をどんどん変えていくのが俺には出来ない事だから、たまに羨ましく思う時もある。こんな事を言っているとアホらしく思うだろうけど。
ほら、また音が流れてくる。音が頭の中に出来たときにはもう、そこにどんな言葉が綴られるのかは決まっているんだろう。
頭が理解をしていなくても心みたいな場所は理解をしていた。

〜♪

携帯が鳴った。

「はい」

今一番関わりたくない世界のうざい奴からの電話。

「それもう近くに居ますよって感じだよな。あー、うん。はいはい。じゃあな」

電話を切ってまだ見ていたかった空を後にした。
< 12 / 35 >

この作品をシェア

pagetop