愛し-kanashi-
どれくらいの時間が過ぎたのだろう。
気付けば空の色が青からオレンジへと変わっていた。
「あの、本名なんですか?」
その子が俺に聞いてきた。
「五十嵐……、悠太」
「五十嵐さんね。私の名前ちゃんと覚えていてね」
そう言うとその子……、彩華は屋上を後にした。
一人屋上に残った俺はまたボーっと空を見ていた。俺は空が好き。表情をどんどん変えていくのが俺には出来ない事だから、たまに羨ましく思う時もある。こんな事を言っているとアホらしく思うだろうけど。
ほら、また音が流れてくる。音が頭の中に出来たときにはもう、そこにどんな言葉が綴られるのかは決まっているんだろう。
頭が理解をしていなくても心みたいな場所は理解をしていた。
〜♪
携帯が鳴った。
「はい」
今一番関わりたくない世界のうざい奴からの電話。
「それもう近くに居ますよって感じだよな。あー、うん。はいはい。じゃあな」
電話を切ってまだ見ていたかった空を後にした。