我が家の妖怪様
「ところで、今日のあれは何だったんだ?」

 いきなり俺を襲おうとした女、それを追い掛け中々戻って来なかった泰葉。もしかして、倒してしまったのだろうか?
 いや、倒したなら返り血を浴びているだろう。その気配はないと言うことは、取り逃がしたのだろうか?

「主が気にすることはない。主はわしが護り抜く」

 いや、それは分かっているんだけど。
 聞いても教えてくれなさそうな泰葉に、俺は深く追求するのを止めた。追求しても教えてはくれないだろうし、都合が悪ければ俺の中に入り出て来ないだろうから。

 とにかく、命を狙われたのには変わりはないんだ。継承式までに力を起こせるようになって、今後に備えなければならない。

「泰葉、修業に行くぞ」
「うむ」

 俺達は部屋を出ると本堂へと向かった。本堂へ入ると、泰葉が結界を張る。篝が乱入して来たこともあり、あの日から結界を張るようになったのだけど。
 結界のせいか風を起こすことが以前より大変な気がする。軽い結界だとは聞いてはいるが、結界の中で風を起こすことは容易なことではなかった。

「―…くっ、ううう」
「悠斗、雑念を捨てろ」
「わっ、分かっている!」

 頭の中を空っぽにして、張り巡らせた結界がないと想定する。足元に神経を集中し、風を起こすことだけを思う。

「―…ひゅう」

 微かに風の流れる音が聞こえ、さわさわと足元に軽く風が触れる感じがした。俺はジーパンのポケットに入れていた箱を取り出すと、今度は箱へと神経を集中させた。
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