振り向け!初恋
手を引かれて連れて行かれたのは社長室で、入った途端いつものコピー機や社員の話し声のない静かな空間にドキドキが更に大きな音を立てた。
「社長。私にはやっぱり……」
「サワ、はい。」
社長は着ていたスーツの上着を脱いで私に渡した。
「自分で掛ければいいのに。」
私の小さなつぶやきが聞こえたのか社長が近づいてきた。
「オレはやらない。お前がやるの!!反抗、口答えするな!」
「は、はい。」
スーツをハンガーにかけて振り向くと窓の外を見ながらネクタイを緩める社長の姿にまた胸が苦しくなった。
「社長!私は仕事があるのでこれで失礼します。」
「ん?じゃあ、ケイタイの番号書いてけ。」
「あの………何で私なんですか」
「他の社員をよく知らない。お前の事は佐々木からよく聞いてるから。佐々木とは同級生なんだ。」
「………そうですか。」
佐々木さんは私の課の先輩で入社した頃からほんとによく指導してくれている優しくてカッコいい人だ。
先輩と同級生かぁ。
私も先輩の横を歩きたかったなぁ。
なぁんて!!
「はい、社長。番号です。」
「ん。」
新社長は私の番号を書いたメモを受け取ると、自分のケイタイを取り出した。
「じゃあ、失礼します。」
私の言葉に新社長は目もあわせずに手首をフラフラと早く去れというように振った。