僕は君のもの
「佐野先輩、ちょっといいですか。」
「おう、桐谷。どうした。」
一応気を使った俺は、彼女から少し離れたところまで、先輩を誘導した。
「今、柏木が、泣きながら走って行きました。」
すると、佐野先輩は、驚いた顔をして、僕を見た。
「こんなとこで、どういうつもりですか。柏木の気持ち考えたことあるんですか?どれだけ傷つければすむんですか。」
先輩は悲しそうな顔をして言った。
「俺たちのこと全部知ってるのか?」
「いえ、何も知らないです。ただ柏木が先輩のことすごく好きなのは知ってます。」
自分で言って、少し傷ついた。
「そうか。俺、本当に反省してる。確かに柏木に気持ちが一時期いった事もある。柏木の優しさに甘えてたんだ。でも、今は、彼女のことしか考えられない。本当にごめ・・・。」
言い終わるか終わらないかの内に、俺は先輩を殴ってしまった。
許せなかったんだ。柏木の純粋な気持ちを気の迷いで傷つけたこと。
先輩は何も言わず、ただ「ごめん。」とつぶやいた。その姿を見ると、ただ柏木のことを遊びで振り回していたわけじゃないことが、分かってしまった。
柏木の想いに応えられないことに、少なからず苦しんでる。
そう感じた俺は、もう責めることが出来なかった。
「僕は、柏木が好きです。これ以上傷つけるのは許さないし、もう彼女の前に現れないでください。」
それだけ言うと、俺はその場から立ち去った。