秘密
SIDE.今野珠子
今珠子は非常階段に腰を掛けて、悠平と向かい合っている。
悠平からは不思議と前日のような酷い雰囲気が感じられず、珠子は少し安堵した。
「晩ご飯は自炊してるの?」
「たまにな」
栄養偏るのにな、珠子はふと、そんな心配をした。
そうして弁当を持ったまま、悠平の隣りへと移動した。
「何?」
「はい」
珠子は弁当を悠平に差し出した。
悠平は少し驚いて珠子を見た。
「いつもコンビニじゃ栄養偏るでしょ、あたしのご飯あげるから食べて」
「は?お前だって腹減ってるだろう、お前のなんだからお前が食えよ」
「でも」
「いいから黙って食えよ」
「もう」
珠子はしぶしぶご飯を食べ始めた。
悠平は黙り込んだ。
「タマ」
「えっ!あ、何?」
「明日、から俺にも弁当作っ、て」
悠平の顔が少し紅潮したのが、珠子にも見てとれた。
門田君が赤くなっている。
可愛い!
「うんっ!作ってくるね」
何やら珠子は嬉しくなって顔がにやけた。
どうしてこの時あたしは嬉しかったのか。
あんなに嫌悪感を抱いていた門田君と話すのが嫌ではなかったのか。
思い返せば、もうこの頃にあたしは。