秘密
SIDE.今野珠子
思わず見えた悠平の子供らしい部分は、珠子に親しみを与えた。
「甘いのっ!て、門田君っ」
「うるさいなっ、笑い過ぎだぞ」
「だって、可愛いんだもん門田君」
門田君が初めて素を見せてくれている、そう思うことで珠子は、少しだけ悠平に好感を持てる気がした。
「もうお前とは話さないっ」
「それじゃあ付き合ってることにならないじゃない」
「!」
外方を向いていた悠平がその事実に初めて気が付いたような顔をして、珠子の方に向き直った。
「っ、門田君可愛い」
「うるさいなっ……、お前タマのくせにしつこいぞっ」
「焦り過ぎだよー。そんな風貌してて案外可愛いんだね」
「そんなってどんなだよ……」
抵抗することを諦めたように悠平は溜め息混じりにそう言った。
「女の子みたい……」
「俺は男だ」
「解ってるよー」
「……」
何か言いたそうな顔をしたけれど、悠平は黙って腰を上げた。
「そろそろ学校抜ける」
「ご飯買いに行くの?」
「おう」
「そう、行ってらっしゃい」
「ん」
珠子も空になった弁当箱を片付けて、立ち上がった。
悠平は黙って階段を降りていた。
悠平の姿が見えなくなったと思うと、再び悠平の頭だけが壁から覗いた。
「俺は可愛くねえからなっ」
「!」
「女っぽくなんかねえからなっ!」
それだけ言うと悠平は顔を赤くさせてそそくさと消えた。
珠子には笑みがこぼれた。