秘密
SIDE.門田悠平
そのとき悠平はいつものように非常階段で授業をさぼっていた。
そこに弁当を持った好美が現れたのは昼休憩に入る10分ほど前のことである。
「はい」
好美は悠平に急に弁当を差し出した。
「え?」
「お弁当。いつもコンビニなんでしょう、私が作ってきたの。食べてね」
好美は強引に悠平の手に弁当を乗せた。
そうしてそのまま行ってしまった。
どうして、昨日の俺の話聞いてなかったのか?
俺は先生に、確かに彼女が弁当作ってくれるって言ったよな。
どうして?
しかし、そう思う悠平が好きなのは確かに珠子ではなく好美なのだ。
悠平も例外はなく、好きな女からの弁当が嬉しくないはずがない。
けれど珠子の気遣いを考えると、憂鬱で申し訳のない気持ちになるのも確かだった。
弁当が二つ。全部食べきれるだろうか。
と、いう経緯があり、今悠平は珠子の前で動けず立ちすくんでいる。
「タマっ……」
呼び止めるための声も珠子に届いたのか届かなかったのか、一度もこちらを見ず珠子は走りさってしまった。
その場には立ちすくむ悠平とそれを見つめる好美だけとなった。
長い廊下にはその二人だけだった。
どれほど経ったか、好美が悠平のいる方向へ歩き始めた。
悠平はまだそれに気付いていない。
「私って、卑怯よね」
悠平の横を通り過ぎる瞬間好美がそう呟いたことでやっと、悠平は外界の音を聞き入れた。